栗好き

おなかいっぱい食べたい。

似合ってますよ

夫は15年くらい髪形を変えていない。

真っ黒でサラサラの超直毛だ。

 

夫は今から既に将来ハゲてしまうことを心配している。

 

今の美容師さんに不満はないようだが、昔はデリカシーのない美容師に気にしていることをサラッと言われたりして嫌な思いをしてきたらしい。

 

私から見ると羨ましくてしょうがないサラサラの直毛も夫にとっては悩みの種で、「俺には選択肢がない。俺にできる髪型はこれしかない」とよく口にする。

そんなこんなで夫は15年くらい髪形を変えていない。

 

そんな夫がいつもとちょっと髪型を変えてきた。

珍しいことが起きたぞと思った。

夫もまんざらでもなさそうだったし、私もまんざらではなかった。

 

次の日、夫が仕事から帰るとこんなことを言ってきた。

「この髪、変って言われた」

 

夫は塾講師をしている。

どうやら教え子(女子)に言われたらしい。

子どもは罪深い生き物だ。

こちらが大人だから思っていることを何でも言っていいと思っていたり、思い付いたことを何の躊躇もなくぶつけてくる。

 

この世界は、思いついたことをちゃんと躊躇できるようになったり、オブラートに包んだりできるようになった人から一抜けするのではないかとわたしは信じている。

 

 

夫はとにかく自分に自信がない。見た目のこと、内面のことすべてにおいて。

夫の自己評価の低さは海よりも深い。

 

夫を傷つける生き物はたとえ子どもであろうと断じて許すことができないので私は心の中で静かに女子を呪った。

 

 

数日後、夫が仕事から帰るとこんなことを言ってきた。

「この髪、似合ってますよって言われた」

 

 

どうやら前回のやり取りを聞いていた子ども(男子)がそっと夫に言ってきたらしい。

 

「髪型、変なんかじゃないですよ。似合ってますよ。あの人なんか顔ケバいくせに(笑)」

 

夫を励ます生き物はたとえ子どもでも大いに歓迎するので私は心の中で静かに少年に祈りをささげた。

どうか、これから先、夫と少年がぶち当たる人生の壁が他の人よりも一つでも少ないものでありますように。