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栗好き

おなかいっぱい食べたい。

この胸いっぱいのレッテルを

独身時代に働いていた職場の先輩A(50・男)から突然メールが来た。

お世話になった某女性職員が辞めるので、メッセージを紙に書いて送ってほしいとのことだった。


そのメールにはわたしを含め、当時働いていた職員の写真をたくさん貼り合わせて加工した画像が添付されていた。

わたしはとても懐かしくなり、しばらく眺めていた。
この職場はみんな仲が良く、とてもいい職場だった。
こんなに人間のできた人たちばかりが集まる職場が世の中にあるんだと驚くほどだった。
しかしわたしには1つだけ黒歴史があった。
今日はその話をしようと思う。

わたしはA先輩(今回メール送ってきた50男)と特に仲が良かった。

先輩は50を過ぎているが、見た目も若々しくて性格もかなり変わった人だった。

わたしは入社してすぐにA先輩と仲良くなり、休憩時間や仕事終わりによく馬鹿話をしたりご飯を食べに行ったりしていた。

先輩に同棲中の彼女がいることも知っていたし、先輩も私もマイペースな人間なので私たちは恋愛感情とかではなく「つるんでいた」という感じだった。

しかしまわりからはそうは思われていなかったらしい。

そんなある日、A先輩の家のリビングで桃鉄をしていたところ、自分の部屋にいたAの彼女がリビングにやってきて「この非常識女」と思い切り罵られ家を追い出されてしまった。

言っておくが私が勝手に乗り込んだわけでもなく、その日先輩の家に遊びに行くことは彼女も了承済みだった。
三人でテレビ見ながら菓子をつまんだりもしていたのである。


後日発覚したのだが、あのときは先輩とうまくいっていなくて楽しそうに話す私たちのことがうらやましくて八つ当たりしてしまったらしい。可愛い女である。

しかしその時はそんな後日談知る由もなく、わたしは二人の中を引き裂こうとしている厄介な女だと彼女に誤解されたのではと思い、それ以来A先輩の家に行くことはなくなった。先輩と必要以上に絡むのもやめた。

そしてこの出来事は変な展開を迎える。
この“桃鉄してたら修羅場になった”話をA先輩はいろんな職員に広めていった。
Aはそうゆうのを面白がる悪趣味なところがある。

前にも別の女性職員と私の仲を拗らせようとして変な噂を流していたこともあった。
こう聞くと嫌な奴だと思うかもしれないが割と嫌なやつなのである。
そしてこの話を聞いたさわやか好青年の先輩が自分の奧さんにこの話をした。

この奥さん、なぜかA先輩とも仲が良い。
おそらくA先輩も面白がってあることないこと奥さんに話したのだろう。

その結果わたしは「人の男を平気でたぶらかす生意気な小娘」というレッテルを貼られ奥さんに嫌われてしまった。
ちなみに奧さんとわたしは全く面識がなかった。
そんなある日、奧さんが計画した鍋パーティに職員みんなが呼ばれ、わたしも嫌々参加した。

わたしは奥さんと初対面だったので、今日はご馳走になりますみたいな挨拶をしに近づくと「わたしは好き嫌い激しい性格だから誰とでも仲良くするつもりはない」という拒絶を示された。
それを聴いたA先輩は腹を抱えて爆笑していた。

その日はずっと奥さんに無視され続け、1人寂しくテーブルの隅で鍋をすすっていた。
途中、ある職員の彼女が私に何回か話しかけてきたが、私はぼんやりしていた。

実はこの彼女、もともとこの職場で働いていたのだが、業務に支障をきたすレベルの嫉妬深さが原因でクビになった伝説の女である。
この日も彼氏の監視役として呼ばれてもいない鍋パーティに勝手に参加していた。

わたしは鍋をすすりながらはらわたが煮えくり返っていた。

“よくもまぁ一方の話を聞いただけで初対面の人間にあんな感じ悪い態度取れるな、あんた子どもいんだろ?どうせお前みたいな女がママ友いじめとかやってだろうな!!”みたいなレッテルを奥さんにペタペタ貼りまくってやった。
まぁでも桃鉄の件に関してはわたしも悪い。
いくら50を過ぎてる相手と言っても異性だし彼女持ちだしでこれに関しては反省した。

Aの彼女には申し訳ないことしたと思った。
後日Aの彼女に誘われご飯を食べに行った。数時間後、アプリ上で飼育しているお互いのペットを撫でに行きあった。完全なる和解である。

しかしわたしは私のことを見下した人、馬鹿にした人、晒し者にした人をそう簡単には許せない性格なので奥さんのことだけは何年も恨んでいた。
心の中で何度もあの鍋パーティを思い出しては、あの時奥さんに言い返したかった言葉を言い放ったり、みんなが楽しく食べている鍋を瓦割りのように真っ二つにし何も言わずにその場を去る、といった妄想をして自分の中で現実逃避していた。
自己肯定感の低い人間を怒らせるとこうなるんだぞ!!と言ってやりたい。

そんな現実逃避を繰り返しても奥さんのことをなかなか許せなかったのだが、結婚が決まり地元を離れ誰もわたしのことを知らないこの街で夫との生活が始まると過去のことは全部どうでもよくなった。

たいていの悩みは引っ越しゃ解決する、そう確信した。

そういえばあの鍋パーティーの帰り、私と一番仲の良い女の先輩に帰り際、『あんたはあんたのペースで人との距離を近づけていけばいいんよ。みんなと同じ速さで仲良くなろうと焦らんでもいい』みたいなことを言われた。

おそらく私が奥さんに人見知りを発動してうまくなじめず一人で鍋をすすっていたと思ったらしい。

本当はそうじゃないんだけど、いつも私のことを見てくれてる先輩がそう思ったのならまぁそれでもいいかと思い、「そうだね」と頷いた。